わたしたちのドア / 川上未映子 (新潮120周年記念特大号より)
待ってました。今度は目(眼)から、文字で、再会できることを。
もうやがて半年前ですが、今年の3月に早稲田大学の講堂で行われた
「春のみみずく朗読会」に行きました。
この朗読会は、村上春樹さんと川上未映子さんの新作とこれまでの作品を、
ご本人たちに朗読をしてもらえる、このうえなく贅沢な朗読会でした。
小澤さん、おもしろかったなあ。
朗読もとてもお上手だった。(俳優さんにむかって、上から目線ですみません・・・)
村治さんのクラシックギターの音色も、作品の雰囲気とぴったりで。
田舎の片隅で、細々と、地味に働いていた私は、(いまもそうだけれど)
プロの作り上げる作品に触れて、ビンタをされたような気持になりました。
それはさておいて。
「わたしたちのドア」
この朗読会の時に、ご本人の声で聴くことができました。
まだどこにも発表されていない、川上さん以外の誰の手も加わっていない、
湿っぽさの残ることばや文章。
川上さんの朗読の後、なぜか涙がぽろぽろとこぼれ落ちてきて、止まりませんでした。
「なんにも、ちゃんと、できなくて」
という一文が耳に張り付いて、ずっと離れなくて。
朗読のあとすぐ、思わず手帳にメモしてしまった。自分のことだと思ったのだと思う。
社会的にも経済的にも、よわい、主人公。
アパートの廃れぐあいや、日常のわびしさ、それでも、生きていくしかない現実。
ことばからいろんな風景が思い浮かんで、そのひとつひとつが胸に突き刺さって、
すごくくるしい。
いきなり住んでいる世界が変わることはない。
まずしくても、かなしくても、みじめな気持ちになっても、生きていくしかない。
だけど、そんなあたりまえを、とても優しく、肯定してくれる。
なんなら、いっしょにがんばっていこうと、一人じゃないよと励ましてくれる。
そんな優しい強さを物語から感じました。
川上さんの作品はどれも大好きです。
朗読会、また行きたいなあ。また開催されたら行こうと思います。
会いたい人に会いに行くって、大切ですね。